NHKドラマ版『作りたい女と食べたい女』:マンガの実写化は難しい。

『作りたい女と食べたい女』が好きだ。今年出会ったマンガの中でも、しみじみと良い作品だと思う。登場人物たちの繊細な問題を取り上げる際には、各話の冒頭に編集部・作者からの《注意書き》が挟まれる。その心遣いに本作の魅力と、ほかのマンガとの違い、優しさと丁寧さが表れている。

ゆざき さかおみ著/KADOKAWA/2021年発行/B6判:162ページ/本体700円(WEBでもアプリでも、数話〜十数話が無料で読めます

家族との関係だったり、セクシュアリティだったり、ジェンダーだったり─────実際に、現実に、社会のなかで生きづらさを感じている人たちが、受け取ってしまう感情。傷つけてしまう可能性。それらを作り手側から〝忘れてないです・無視してないです〟と伝えてくれることが、こんなにもホッとすることだとは。

作りたい女がいて。食べたい女がいて。作りたくない女がいて。食べたくない女がいる。そんな4人が仲良く楽しく食卓を囲むことの多幸感。

そんな『つくたべ』を教えてくれた姉が「ドラマ版もよかったよ」と言っていたので、U-NEXTのポイントを使ってNHKオンデマンドから鑑賞した。各話15分の全10話でさくっと観られる。

感想は─────良いところもあるんだけど、違和感が消えない……。

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理由は分かってる。主人公2人のうち《春日(かすが)さん》は春日さんに見えるのだが、《野本(のもと)さん》が最後まで野本さんに見えなかったのだ。

思い当たる要因は2つある。1つは、キャラクターの特徴。〝記号力〟といってもいいかもしれない。

春日さんの記号力は強い。体が大きくて、よく食べて、あまり表情は変わらず、笑顔を見せない。原作を読んだ当初は(外見は女性だけど中身は男性キャラなのでは?)なんて考えが過ぎったが、おそらく彼女はジェンダーバイアスの逆をいく女性として造形されている。本人にコンプレックスがあるのかは分からないが、体が大きいことを気にしない、いつも美味しそうにいっぱい食べる、他人に笑顔を振り撒かない春日さんは、とても魅力的だ。

反対に野本さんは(あくまでカギカッコ付きで)どこにでもいそうな、彼氏がいてもおかしくなさそうな女性として造形されている。春日さんの記号力の強さに比べたら、野本さんはこれといった特徴がない。オフィスで働く女性らしい化粧っ気と服装。これにもおそらく理由はあって、見た目だとか性格だとか趣味嗜好といったものと〝その人がどんな人に惹かれるか〟は、まったく別の話だと示すためだと思われる。

そんな野本さんの記号力を挙げるとするならば─────自分は無邪気さだと思っている。とにかく料理が好きで、春日さんが大好きで、胸をときめかせている。ときに暴走する野本さんは可愛らしく、少し子どもっぽい。絵本が好きで、実家の母をママと呼んでいる。ネット検索したらアダルトサイトが表示されて、思わずPCを閉じてしまう。(このワードでエロが表示されてしまうこと自体が由々しき問題だが。)

でもドラマの野本さんは、なんというか─────キレイなお姉さん、という印象なのだった。演じる俳優は野本さんっぽく振る舞っているが、春日さんと並ぶとよりお姉さんみが際立つ。

実際に野本さんは、春日さんよりやや年上の設定だ。ただし読者がそれを知るのは、春日さんが自分の家族について語る回(コミックス2巻)のあとで、それまで二人の年齢差は分からない。20代後半から30代前半の同世代、という印象しかない。これが要因の2つ目。

マンガの実写化においてもっとも重要な課題は、ビジュアルの説得力─────これに尽きる。なにせ正解がすでに絵で表現されてしまっているのだから、できる限りそれに近づけるか、別のロジックを構築するしかない。春日さんのキャスティングは条件に当てはまる人物を探すのが大変だが、ある意味ラクだともいえる。これだけ特徴がハッキリしているのだから。

やや年上の設定によって、一番のチャームポイントである無邪気さが薄い野本さん……そこは設定よりもキャラクターらしさを優先してほしかった……。いや、俳優さんに罪はないんですけどね。

製作が決定したシーズン2も楽しみです。

ドラマの野本さんは「ぷえ゛っぐし!」ってオッサンみたいなクシャミもしなさそう。