『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』:クローネンバーグ監督を好きになる。

デヴィッド・クローネンバーグ。人間の肉体に不可解なことが起きる、または直接的な人体破壊描写を指す【ボディーホラー】の第一人者。

上海租界で生まれ育ち、日本の侵略戦争に巻き込まれたJ・G・バラード、重度の薬物中毒者で自分の妻を殺害したW・バロウズといった、異端のSF作家の作品を映像化する鬼才。

彼の映画が話題になるたび、観たい!(*’▽’*) と怖い!((;゚Д゚)) の感情がせめぎ合い、サブスクのサムネイル画像にやっぱやめよ( ˘ω˘ )スヤァ となってしまって───自分はクローネンバーグ作品をほとんど観たことがありません。

ただ近年心がけているルールのひとつに、〝観るのがしんどそうな映画こそ劇場で観るべし〟がありまして。映画館に行くこと自体がアガる⤴︎行為かつ非日常なので、精神的負担が少ないのです。

愛聴してるYouTubeチャンネル【BLACK HOLE】の課題作に上がったことも背中を押して、避けてきた映画監督の新作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』を鑑賞しました。

予告の印象に、はたして楽しめるだろうか……と不安になりながら。

2022年/カナダ=ギリシャ/108分

*****

人間が痛覚をなくし、感染症を克服し、肉体を傷つけることを恐れなくなった近未来。

主人公・ソールは体の中に新しい臓器が生まれる、特異な体質の持ち主だ。日々その症状に苦しみながらもパートナーのカプリースと共に、それらを摘出手術するパフォーマンスを行なうことで人々の脚光を浴びている。

一方で行政機関は、人間の肉体の急激な変化を警戒していた。しかし臓器登録所で働く職員たちは、未知の臓器に魅了されている。若い職員のティムリンはあからさまな好意をソールに寄せる。

そんなある夜、「息子の遺体をパフォーマンスに使わないか」と誘う男が現れる。

*****

このわけのわからないストーリーを98年に書き上げて、一文字も変えていないという。

鑑賞直後は疑問点が多く頭をひねったが、一番気になった《機能不全の臓器のなにがアートなのか》《例のチョコバーを食べたソールの表情の意味》を、『デヴィッド・クローネンバーグ 進化と倒錯のメタフィジックス』のヒロシニコフさんの解説が、非常に明快な答えを提示していて目から鱗が落ちるような心地がした。

Pヴァイン/2023年発行/単行本:160ページ/本体1800円

〝自分が生み出したアートへの確信〟……ますます本作が好きになるし、意味がわからないと感じた人ほど本書を読むことをおすすめしたい。

グロテスクで倒錯的で、独特のユーモア、酩酊するような奇怪さ。でも俳優3人が美貌かつエレガントなので、妙なとっつきやすさも感じる。

特にティムリンを演じたクリステン・スチュアートは、自分が初めて彼女を認識した『トワイライト』シリーズ一作目の内気な感じ、オタクっぽさが出ていて嬉しかった。『指輪物語』の馳夫ことヴィゴ・モーテンセンが演じるソールと、『エマニエル夫人』に抜擢されていたレア・セドゥが演じるカプリース、二人の関係がまったく揺らがないところも安心する。

ティムリンがソールの唇に指を突っ込むシーン、ソールとカプリースが絡み合うショットは、とてもエロティックで美しい。

冒頭のプラスチックのゴミ箱をバリバリ食べる少年に(ぎょえー!!やめてー!)と叫びそうだったのが嘘のように、映画館から家までの帰り道、自転車を走らせる自分は不思議なくらい笑顔だったのでした(*´꒳`*)ホクホク

*****

普段はTVやiPadで映画を観ることが多いというクローネンバーグ監督。ベネチア国際映画祭で「映画館は大切だ」と熱弁をふるうスパイク・リー監督を相手に、「これで『アラビアのロレンス』が観られるよ」とスマートウォッチを見せてからかったそうな。(映画雑誌『SCREEN』の記事より

なにそれ最高かよ……(*°▽°*)トゥンク

なぜか元気が出る映画でした。